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東京地方裁判所 平成4年(ワ)4831号 判決

原告

渡辺幹夫

右訴訟代理人弁護士

鈴木隆

被告

日本管材センター株式会社

右代表者代表取締役

関根唯夫

右訴訟代理人弁護士

鈴木武志

加城千波

村越仁一

主文

被告は原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成三年一二月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを六分し、その五を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、六五〇万円及び内一〇〇万円に対する平成三年一二月三一日から、内五五〇万円に対する同四年四月三日から各支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、配管機材、管工事の請負施工等を営む被告会社に平成三年八月二〇日に雇用された原告が、被告会社に対し、右雇用に際し、被告会社は原告に対し、同年一二月に賞与として一三六万円(但し、後日一三〇万円に減額)を支払う旨約したにもかかわらず、同年一二月に内三〇万円を支払ったのみで残金一〇〇万円の支払をしないとして、この支払を求めるとともに、被告会社は原告を平成四年一月六日に同月三一日付をもって解雇する旨の意思表示をなしたが、この解雇は違法であり、このため、原告は、逸失利益二五〇万円の損害と三〇〇万円相当の精神的損害を被ったとして、不法行為に基づきこの損害賠償金の支払とを求めた事案である。

争点は、次の二点である。

一  被告会社が原告に対し、原告を雇用するに際し、原告の主張する一三六万円の賞与の支払約束をしたか否か。被告会社はこの約定の存在を否認している。

二  被告会社は原告に対し、原告の主張する解雇の意思表示をしたか否か。仮に、この意思表示がなされたとしてこれが原告の主張するように不法行為を構成するか否か。不法行為を構成するとして原告の損害如何。

被告会社は右意思表示の存在そのものを否認している。

第三争点に対する判断

一  争点一の賞与支払約束の存否について

証拠(〈証拠略〉、原告及び被告会社代表者各本人尋問の結果)によると、次の事実を求めることができる。

原告が被告会社に入社したのは原告の商事会社で経理の責任者としての仕事をしたいという希望と被告会社の経理責任者を雇用したいという希望とが偶々合致したことによるものであって、このようなことから、被告会社代表者関根(以下、「関根社長」という。)は、原告の雇用については原告の希望に副った条件を受け容れた。これを給与に関してみるに、原告がそれまで勤務していたヤマト硝子株式会社の年間給与総支給額七七〇万円を上回る八〇〇万円とし、賞与のうちの同年度分については、前職に留まれば支給を受けることができるのに被告会社に転職したために勤務期間が短いということで支給されないのは困るという原告の要望を容れて同年一二月に一三六万円を支給する旨を約した。但し、関根社長は、その際、支給名目については、被告会社の給与規定上賞与として支給することのできないことを慮って支度金等の名目となることもある旨を述べた。ところが、原告は、賞与の支給日である同年一二月一二日、三〇万円の支給を受けたのみで約定どおりの支給を受けられなかったので、その頃、関根社長に約定どおりの支給を求めたところ、これに対し関根社長は、同年一二月末までに一〇〇万円を支給する旨約したので、原告はこれを承諾した。

右認定事実によると、被告会社は原告に対し、同年一二月末までに月々の給与とは別に、賞与ないしこの性格を有するものとして一三〇万円を支給することを約したことを認めることができる。

したがって、この点に関する原告の主張は理由がある。

二  争点二について

解雇の意思表示の存否について

本訴においては原告の主張する解雇の意思表示の存在を裏付ける書証はなく、この存在を裏付ける証拠としては原告の供述のみである。

なるほど、関根社長が原告の経理責任者としての勤務態度及び能力に不満を抱き、平成四年一月六日の幹部会かリーダー会議の開始に先立ち、原告に対し、原告が前年の一二月二七日のいわゆる仕事納めの日に部下が午後一〇時ころまで残業をしていたのに午後六時ころ退社してしまったことに立腹していたこともあって、同会議に出席することを差止めたことはあった(関根社長の供述)が、同日、関根社長から被告会社としては原告を必要とはしないので一月末までに退職して欲しい旨言われたとの原告の供述は、関根社長の供述(原告に解雇する旨言ったことはなく、原告には勤務態度を改めるように注意し、他の部署に移動してもらうかも知れない旨述べたとの供述)と対比してにわかには信用することができない。仮に、関根社長が原告の供述するとおりのことを述べたとしても、同供述は、原告に退職することの希望ないし勧告をしたにとどまるとの趣旨に解することもできるのであって、これをもって原告に対する確定的な解雇の意思表示をしたものと解することは困難である。そして、他に被告会社が原告に対し、原告の主張する解雇の意思表示をしたことを認めるに足りる証拠はない。

よって、この点に関する原告の主張は、その余の点についての判断を進めるまでもなく理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 林豊)

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